弟矢 ―四神剣伝説―
「うぉぉおおおお!」


雄たけびを上げ、武藤小五郎が突進してくる。その手には『青龍一の剣』が握られていた。

新蔵は咄嗟に峰を返し受け流す。正面からまともにぶつかったのでは刃が持つまい。新蔵が鬼と斬り合うのは、これが三度目であった。


最初は正三で、訳のわからないうちに長瀬に突き飛ばされた。そして、先ほどの鬼だ。

あれは既に人ではなく、骸と化した鬼の傀儡(くぐつ)に過ぎなかった。刀ではなく、折れ掛かった首を角材で叩き落とし、息の根を止めた。


だが、武藤の雄牛の如く太い首を目の当たりにし、刀を持つ手が震える。


「――ハアッ!」


深く息を吸い、一気に吐く。気合一閃、武者震いを振り切った。

新蔵は後方に飛びずさると、あらためて間合いを取る。

左上段に構え、拳の下に武藤を捉えた。体格は互角だ。力比べで負けるわけにはいかない。それに、これは自らの失態だ。取り戻さねば、弓月の前には出られない。

一瞬、武藤が目を逸らせた。

新蔵はその隙を突いて、武藤の首目掛けて刀を振り下ろす。


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