弟矢 ―四神剣伝説―
だがそこは、分厚い筋肉の鎧で守られていた。

普通に殺すためなら突けばいい。目玉でも喉笛でも、然しもの奴にも鍛えられない場所がある。しかし、殺しても鬼は止まらないのだ。

新蔵の渾身の一撃は、武藤の首に四分の一ほど食い込み、止まった。挙げ句、刃が血肉に巻き取られ、どうにも外れない。

 
「なっ……くそっ!」


新蔵が、言葉にできたのはそこまでだった。

武藤は首から血の雨を降らせながら、その顔は不気味な笑みを浮かべている。直後、『青龍一の剣』が新蔵に襲い掛かった。丸腰となっては、後は逃げるしか手はない。
 

剛剣は掠めるだけで新蔵の浅黒い肌を切り裂いた。

乙矢を追いかけ、すぐに取って返し、しかも戦闘を挟んでの強行軍だ。丸二日、まともに眠ってもいない。そして、不覚にも足がもつれ……地に膝が突く。

斬られる、と思った瞬間、武藤の動きも止まった。どうやら首に刺さった刀が邪魔になったらしい。自ら抜き、それを投げ捨てた。

だが、その好機を見逃す新蔵ではない。足元の死体が掴む刀を奪い――刹那、攻撃に転じた。

不意に身を起こし、新蔵は弾ける様に武藤目掛けて斬りかかった。

だが、目測を誤ったのか、奴の顔に傷を増やしたに留まる。借り物の刀は一瞬にして叩き折られ、『青龍一の剣』が新蔵の頭上で煌き――。


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