弟矢 ―四神剣伝説―
「新蔵、無事か?」

「織田さん……すみません、なんとしてもこの手で始末をつけようと」


さすがの新蔵も肩で息をしている。


「無茶はするな。姫様が、本気でお前を破門するわけがなかろう?」


新蔵は、一矢がこの里に結界を張り、新蔵や里人らの心に、猜疑心や嫉妬など負の感情を刷り込んだのだ、と正三から聞かされた。

言われれば言われるほど思い当たることばかりだ。見事に罠に嵌まり、弓月の傍を離れ、乙矢の命を狙った。あまりの無様さに情けなくて涙が出そうだ。

落ち込む新蔵とは逆に、正三はいつになく興奮している。


「新蔵、よくぞ乙矢を連れ戻したな。お前の手柄だ」

「そんな……手柄ってことは。俺はただ」

「見ろ。奴の動きを。出逢った時とは別人だ」


正三も、最早真っ直ぐ立っているのが精一杯といった風情だ。それでいて、瞳を輝かせ、食い入るように乙矢を見ている。

確かに……それは、とても新蔵に首を締め上げられ、命乞いをした男と同一人物とは思えない。今の乙矢は、素手で、鬼と化した武藤小五郎と対峙しているのだ。

それも、一歩も引かず。


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