弟矢 ―四神剣伝説―
「あいつ……ひょっとして、また殺さないつもりなのか? 鬼を相手に、なに悠長なことを」


そんな新蔵の独り言に、横から正三が口を挟んだ。


「まあ待て、ここは奴に任せよう。それに――だからこそ、青龍は奴を選んだのかも知れん」


正三の言葉に、新蔵は直感が確信に変わるのを感じていた。


「神剣は絶えず語りかける。――お前は選ばれた勇者だ、お前の前に敵がいる、敵は殺さねばならない――私は、自分に流れる血ゆえ、伝説に思いを馳せ、もし自分が選ばれたなら、身命を賭してもそれを果たそうと思っていた。『青龍の鬼』は、そんな私の思いあがりに火をつけ油を注ぎ込んだ。敵であるなら身内でも、たとえ主であっても斬らねばならぬ、と」


その言葉に新蔵はブルッと震えた。己の未熟さがまざまざと甦る。


「それは、誰でもそうなると思います。織田さんのせいじゃない。誰だって……」


態のいい自己弁護だ。わかってはいたが、言わずにいられない。


「そうだな。だが、乙矢は違う。奴は鬼の問いに否と答えた。――誰も斬りたくない、誰も殺させない」

「じゃあ、あいつ……本当に」

「奴が『白虎』の持ち主かどうかはわからぬ。だが、『青龍二の剣』は奴を選んだ。そう信じている」

「では、二人とも……ということですか?」

「わからんな。一矢が『朱雀の主』で我らを裏切ったのか。或いは、既に鬼と化し、自在に鬼の剣を操っている可能性もある。だが――それは伝説にはない、恐怖だな」


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