弟矢 ―四神剣伝説―

三、剣士の最期

後ろを取った時点で勝ちを確信した乙矢だが、意外と手こずった。

『鬼』は首を落とすか、神剣を取り上げるしか止まらない。必死で首を絞め、すでに骨が折れてるはすだった。切断と同じ状態に持ち込もうとするのだが、凄い力で抵抗して動きが止まる気配がまるでない。仕方なく、乙矢は首締めを諦めた。

残すところは、神剣を狙うしかない。

掴んだ手首を離さぬまま、四方投げの要領で乙矢は体を反転させ、武藤の力を逆に利用して投げ落とした。

手首は掴んだままだ。武藤の肘は逆に反り返り――そこに膝を落とし、一気に骨を砕く。

直後、山裾まで届くような叫び声をあげ、武藤の左手からスルリと神剣が滑り落ちる。同時に、武藤は首を傾けたまま、全身から空気が漏れるように、力なく崩れた。


乙矢はホッとして武藤から離れ、数歩後ろに下がって座り込む。

これほど、真剣に戦ったのは生まれて初めてだ。もちろん、座り込んでる場合ではない。一刻も早く弓月のもとに行かねばと思うのだが、さすがの強行軍に体力も限界だった。


「乙矢……」


後方から新蔵の声が聞こえ、安堵の溜息と共に振り向いた。


「乙矢っ!」


どうやら正三も駆けつけて来たらしい。

自分は大丈夫だ、でも神剣の鞘を探さないと……そんなことを口にしようとした瞬間だった。


「後ろだ! おとやぁ!」


< 321 / 484 >

この作品をシェア

pagetop