弟矢 ―四神剣伝説―
「織田さん……織田さん……」


新蔵は刀を手に、棒立ちのまま呟いている。

神剣を胸に刺したまま、膝をついた正三を、乙矢は抱きとめていた。


「なんで……俺なんかのために……なんでだよっ!」


見る見るうちに、乙矢の双眸は曇り、溢れ出した涙が頬を伝う。


「なぜ、だと? 借りを……返した、だけ」


ゴボッと、正三の口から血の塊が流れ落ちた。

それを見た新蔵は慌てて駆け寄る。


「織田さん。すぐに凪先生を……コイツを抜いて」

「抜くなっ!」


神剣の柄に手を掛けようとした新蔵を乙矢が制した。


「抜いたら血が噴き出して、すぐに死んじまうぞ!」

「じゃ、じゃあ、どうするんだ? 織田さんをこのままにしておけるかっ!」

「それは……それに、神剣を掴んで鬼になったらどうすんだよ!?」
 

新蔵はハッとする。彼の中には勇者の血は流れていない。鬼になることは目に見えている。だが、乙矢なら……。


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