弟矢 ―四神剣伝説―
彼らの先頭にいたのは狩野天上。一矢の命令で、結果的に、武藤の後塵を拝することになった。


「狩野様! 里跡の出入り口は封鎖致しました! 次のご命令を」

「鬼と神剣、そして、あの武藤がどうなったか……十人ほどに先陣を切らせよ。我らが出るのは、その後だ」


外部から見て、蚩尤軍が里跡と呼ぶ場所は、静まり返っていた。

あの方……いや、一矢が何を考えているのか、今ひとつわからない。乙矢を自分の手で、と言いつつ、何ゆえ、こんな回りくどい手段を使うのか。何度も危機に陥れ、神剣でけしかけ、まるで乙矢に『神剣を抜け』と言わんばかりだ。

乱世でなければ出番のない狩野のような男にとって、一矢の謀反は渡りに舟だ。

しかし、所詮は鬼。一矢の下で動くが、一矢のために動いているわけではない。当然、一矢のために死ぬことなど論外。

だが、事態はすでに、狩野の予想が及ばぬ方向に進みつつあった。 


「武藤様が……自ら『青龍一の剣』を抜き、鬼となられたよしにございます!」

「愚かな。では、今、里の中で暴れているのか?」

「いえ……遊馬の剣士と刺し違えて、絶命されたとのこと」


その言葉に狩野の眉が動く。


「刺し違えた剣士の名は?」

「――織田正三郎!」


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