弟矢 ―四神剣伝説―
正三に縋り、泣きじゃくる乙矢の姿に、新蔵は落ち着きを取り戻していた。

彼には、論理的に考える頭はない。だが、やらねばならないことは体が知っている。


新蔵は拳を握り締め……その瞬間、正三と目が合った。


正三は新蔵の考えがわかったのか、荒い息でフッと微笑む。

その笑顔は長い年月を一瞬で駆け抜け、新蔵の胸に焼け付く痛みを残した。彼はこみ上げる熱いものをグッと飲み込み、奥歯を噛み締める。

新蔵は微かにうなずき、乙矢の頬を殴りつけた。


「泣くなっ! お前が泣くんじゃない。俺には、神剣を手にする資格はない。――後は、お前に任せる。頼んだぞ」

「な、何を言ってるんだ? 何をする気だ……よせっ! 新蔵、頼むから止めてくれっ!」


悲鳴を上げる乙矢に背を向け、落ち着いた声で新蔵は言った。


「弓月様を守ってくれ。ここは俺が引き受ける。乙矢――絶対に死ぬな!」


新蔵は足元に転がる刀を拾い、敵陣に突っ込んで行った。


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