弟矢 ―四神剣伝説―
(弓月殿を守れだと? 俺には生きろって……どうして父上や母上と同じ事を言うんだ?)


茫然自失の乙矢の耳に、今にも消えそうな声が届く。

「ぉと、や」

「正三……しっかりしてくれ。俺はどうしたら」

「し、んぞうを……死なせたく、ない」

「わかってる、そんなことは……でも、どうしたら」


正三は掠れる声で、だが、きっぱりと言い切った。


「この、胸から……神剣を、抜き……た、たかえ」

「無理だ。抜いたらすぐにお前が死んじまう。それに、俺が鬼になったら誰が止めてくれるんだ?」

「だい……じょ、ぶ。お前は、鬼に、は……なら、ない」

「なんでそんな」


正三は指を動かすと乙矢の胸を差した。


「そこ、に姫さまが……いる、かぎり、決して、鬼にはなら、な……い。おとや……皆を、守って……くれ。どうか、おまえの、勇気と正……義をしん、じている」

「しょう、ざ。そんな、俺に、そんなこと」


まだ弱腰な乙矢に見せ付けるように、正三はガッと『青龍一の剣』の柄に手を掛けた。そして、自ら引き抜こうとする。


「よせっ!」


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