弟矢 ―四神剣伝説―
(……それでいい……)

正三の胸に後悔の文字はなかった。両の瞼は重く、再び開く力は残っていない。どうやら、勇者の戦いを見ることは叶わぬようだ。

だが、伝説の勇者を守るために死ぬことは、一門に生まれた剣士の栄誉だろう。

願わくは、今一度、最愛の姫の姿を瞳に映したかったが……。
 

あからさまな愛情を示す事は一度もなく、遊馬家師範代、織田正三郎は吉備の山中で二十七年の生涯を終えた。



< 331 / 484 >

この作品をシェア

pagetop