弟矢 ―四神剣伝説―
このまま膝を突けば串刺しは確実だ。


(ここまでか……)


乙矢は少しでも遠くへ逃げただろうか? 

せめて奴が本物の勇者で、弓月を守ってくれることを願うばかりだ。

新蔵は様々な思いを巡らすが、いつまで待っても、その胸に狩野の刃は突き立てられず、首と胴は繋がったままである。

堪えきれず新蔵は膝を折り、敵将を見上げた。


その狩野の瞳は新蔵など映してはいなかった。新蔵の頭越しに一点を凝視し、あり得ないものでも見たかの如く瞳孔は開いている。


そして、振り返った新蔵の目に、剣を揮う乙矢の姿が映った。


「な、なんで逃げないんだ! 馬鹿野郎が、なんのために……」


そこまで悪態を吐いて、彼も我が目を疑った。

乙矢の手に握られていたのは――『青龍一の剣』。


それは、神殿に祀られた、新蔵が長年目にしてきた神剣の姿ではない。

鬼の手に納まり、刃に血を纏い、更に血を欲する鬼の剣とも違う。

漆黒に浮かぶ一筋の閃光。

深淵たる無明の闇を切り裂き、青は本来の青を取り戻し、丙夜(へいや)の森を席巻しつつあった。


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