弟矢 ―四神剣伝説―
余裕綽々(しゃくしゃく)と見下ろしていた狩野にあからさまな動揺が走る。それに気付き、乙矢は静かに笑って答えた。


「ああ、だろうな。こいつは鬼を宿している。さっきから、敵を殺せ、もっと血を吸わせろと、うるさくて敵わん」

「なっ……貴様」


乙矢はキッと表情を引き締め、狩野の両眼を見据えた。

神剣を右足先下段に構え、左手はそっと柄に添わせる。


「掛かってくるなら……その腕、貰い受ける」
 

新蔵は、乙矢のあまりの変わり様に、逃げるのも忘れ地面に座り込んだままだ。

つい先日と立場がまるで逆転している。狩野の紅を引いたような唇はわなわなと震え、見る見るうちに白面を憤怒の色に染め上げた。


「調子に乗るなっ!」

「警告はしたぜ」

「死ねぃ!」


乙矢の言葉を無視し、狩野は、闇に走る稲妻の如く斬りかかった。

その素早い太刀筋は、とても肉眼では捉えきれない。


刹那――新蔵は乙矢が狩野の白刃に一刀両断されたかのような幻を見る。


「乙矢っ!」
 

その時、新蔵の眼前に腕が転がった。


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