弟矢 ―四神剣伝説―
一刀両断にされていたのは、狩野の右腕だった。見事、肘から下は地面に落ち、まだ神経が通っているかのように刀を握り締めたまま蠢いている。


カチャリ――


乙矢は再び峰を返し、『青龍一の剣』を構えなおす。その姿は神々しくすらあった。


「次は首だ。貴様が死ねば、兵は引く」


ふっ……と狩野は笑うと、


「はははははっ。――お前、人が殺せぬのではないか? 先刻より腕しか落としておらぬだろう!」

「いいぜ。――来いよ」


はは……狩野の笑い声がピタリと止んだ。

それほど、乙矢の殺気は恐ろしいものだった。『鬼』を感じさせる気に、近くにいた蚩尤軍の兵士は腰が抜けたように座り込む。恐ろしさのあまり、失禁するものまでいた。


「どうした? 神剣は、持つ者を勇者にも鬼にも変える。選ぶのはお前だ!」


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