弟矢 ―四神剣伝説―
五、『青龍』の声
「しょうざぁ……しょうざぁ……」
里に入ると正三の名を呼ぶおきみの姿が目に入った。
叫ぶでもなく、ただ、静かに正三の手を擦りながら、優しく声を掛けている。
「……おきみ。もう、正三は起きないよ」
「おとやぁ」
見上げたおきみの瞳は、そんなことはわかってる、と言っていた。
悲しいことに、おきみは人の死に慣れているのだ。大事な人は自分を残して皆死んでいく。
彼女の頬に涙の跡があり、それは、既に乾いていた。自分の半分も行かぬ少女を、流す涙が尽きるほど悲しませたことに、乙矢は奥歯を噛み締めた。
「よくも……同胞を手に掛けてくれたな! この蚩尤軍の犬め!」
隠れていた里人は、蚩尤軍が立ち去ったことを知り、戻って来たのだ。そして彼らは、乙矢の顔を見るなり、武器を手に取った。
彼らは、一矢が神剣と結界を使い、里にいるほとんどの人間に術を掛けていたことなど知るはずもない。
正三も里人らに、そこまで説明する時間がなく、真実を知るおきみにはその手段がなかった。
「和鳴さまは良い宗主さまだった。それなのに……お前は爾志家の恥だ!」
「勇者に選ばれた一矢さままで殺す気か? わしらがお前を殺してやる!」
彼らは、この里だけでなく、高円の里が襲われたのも乙矢のせいだと思っている。
蚩尤軍の手先となり、乙矢が隠れ里の場所を教えた。その上、里人を殺し神剣までも奪った、と。
里に入ると正三の名を呼ぶおきみの姿が目に入った。
叫ぶでもなく、ただ、静かに正三の手を擦りながら、優しく声を掛けている。
「……おきみ。もう、正三は起きないよ」
「おとやぁ」
見上げたおきみの瞳は、そんなことはわかってる、と言っていた。
悲しいことに、おきみは人の死に慣れているのだ。大事な人は自分を残して皆死んでいく。
彼女の頬に涙の跡があり、それは、既に乾いていた。自分の半分も行かぬ少女を、流す涙が尽きるほど悲しませたことに、乙矢は奥歯を噛み締めた。
「よくも……同胞を手に掛けてくれたな! この蚩尤軍の犬め!」
隠れていた里人は、蚩尤軍が立ち去ったことを知り、戻って来たのだ。そして彼らは、乙矢の顔を見るなり、武器を手に取った。
彼らは、一矢が神剣と結界を使い、里にいるほとんどの人間に術を掛けていたことなど知るはずもない。
正三も里人らに、そこまで説明する時間がなく、真実を知るおきみにはその手段がなかった。
「和鳴さまは良い宗主さまだった。それなのに……お前は爾志家の恥だ!」
「勇者に選ばれた一矢さままで殺す気か? わしらがお前を殺してやる!」
彼らは、この里だけでなく、高円の里が襲われたのも乙矢のせいだと思っている。
蚩尤軍の手先となり、乙矢が隠れ里の場所を教えた。その上、里人を殺し神剣までも奪った、と。