弟矢 ―四神剣伝説―
「違う! 違うんだ。皆、誤解なんだ。乙矢は何もやっちゃいない。乙矢じゃないんだ。あれは……」


悲しみに沈む時間すらない。新蔵はすぐさま立ち上がり、里人らに説明しようとするが、元々口の回るほうではない。


「だったらその剣はなんだ!」


一人の里人が乙矢の腰を指差した。そこには鞘に納まった『青龍一の剣』が下がっていた。


「それは、盗まれた『青龍一の剣』じゃ!」

「やっぱり、お前、蚩尤軍と通じとったな! その神剣が何よりの証拠だ!」


禍々しい気配は消えたはずだが、里人の心に根付いた不信感はそう簡単には消え去らない。

 
「違うと言っとるだろうがっ! この剣は、乙矢が取り戻してくれたんだ! そのために、織田さんは……」


二人の後方に寝かされた正三が、すでに事切れているのに気付くと、一人が叫んだ。


「お前が殺したんだな!」


それは、里の連中を殺気立たせるのに充分な一言だった。
 

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