弟矢 ―四神剣伝説―
息を呑む周囲に向かって、乙矢は初めて口を開いた。


「一矢が言った通り『白虎』を持ち出し、奴らに渡したのは俺だ。両親や一門の連中を殺したも同然と言うなら、どんな罰も受ける。だが、今は駄目だ。この通り『青龍一の剣』は俺の手の中にある。俺は、ここで死ぬわけにはいかない。だが一つだけ――俺は、この手で同胞を殺めた事は一度もない」


周囲は、水を打った様に静まり返っている。


「だ、だけど……おきみが見たって……なぁ」


里人らは一様に顔を見て肯き合う。

そこに、おきみが叫んだ。


「おとやじゃない! おとやじゃない! おとやじゃない!」


上手く言葉にできないことが腹立たしい――握りこぶしを振り回し、おきみは、自分の太腿を叩きながら何度も叫ぶ。


「おきみが指差したのは乙矢じゃない……あれは一矢だったのだ!」


おきみの気持ちを代弁するように新蔵が話すが、里人が俄かに信じるわけもなく。


「馬鹿を言うな! 一矢さまは伝説の勇者さまだぞ!」

「そうだ、高円の里でも我らを救って下さった」

「勇者さまがなんでわしらを殺すんじゃ!」


新蔵は迷った。正三の話していたことをこの場で言うべきか……。だが、あくまで仮定の話で、何も証拠がない。


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