弟矢 ―四神剣伝説―
「ったく……あいつは本当に猪の生まれ変わりらしいな」


新蔵が部屋を飛び出した後、溜息を一つ吐くと乙矢は正三に向き直った。


「ちょっと待っててくれよな。すぐに弓月殿を連れて戻ってくる。誰もそっちにはやらねぇから……俺も、まだしばらくは逝けそうもないし、な」

「……おとやぁ……」


おきみの顔を見ていると、彼女の心の声が乙矢の胸に流れ込んで来る。まるで、あの時の正三のように。


「ああ、俺は死なねぇよ。約束する。……なあ、おきみ、俺が戻るまで、正三のこと頼むな」


乙矢は優しく微笑むとおきみの頭を撫でた。

大きく肯き、笑顔を見せるおきみだった。


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