弟矢 ―四神剣伝説―
里の入り口付近に見張り台として設置された櫓がある。蚩尤軍が乗り込んだ時、使っていたものだ。その櫓の土台にもたれ掛かるように、新蔵は立っていた。

乙矢は苦笑しつつも、『青龍一の剣』を右手に持ち替え、腰に差しながら新蔵に近づいた。


「美作(みまさか)辺りはとうに過ぎてる。ここから西に十里あまりか……南国に向かったな」

「な、なんで、そんなことがわかるんだ?」


新蔵の問いに乙矢はスッと左手を動かし、


「コイツが言ってる。弓月殿がそこにいる、って」


なぜ『青龍』に弓月の居場所がわかるのか……新蔵の目は無言で問い掛けるが、乙矢にも仕組みは良くわからない。だが、『青龍』は弓月の元に戻りたがっている。

乙矢の心を反映しているのか、それとも……。


「正三が言ってた、一矢が『朱雀』を持ってるという言葉。あいつが南国を目指してるなら、宗次朗さんと一矢の間に何かあんのかな?」


乙矢はポツリと呟いた。

だがそれより、新蔵には気になることがあるらしい。


「お前が持つから『青龍』はそう言うのか? お前は『青龍の主』なのか?」

「……さあ」

「貴様っ!」

「待て待て怒るな。理屈で説明しろって言われてもわからんねぇよ。ただ、お前が持ってた時はそうじゃなかったのなら、そうなのかもな」


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