弟矢 ―四神剣伝説―
新蔵はまるでわからないらしく、口を開いたままだ。


「なんのことだ? 俺は神剣を持ったことなど一度もないぞ」


やはり、まるで気付いてなかったらしい。

乙矢は少し躊躇したが、ここで新蔵に話すことにした。


「佐用の手前でお前が俺を斬ろうとしただろ? あの時、谷に落ちた剣……一矢から預かったと言ったあの剣は、『青龍二の剣』だ」

「なっ! そんな馬鹿な……そんな」

「お前の口調とか様子が、神剣を抜いた時の正三に似てたから……こうなった今は間違いねぇだろうな」

「だったらなぜ言わん!」


血相を変えて新蔵は乙矢に掴み掛かる。


「言ったら、お前が迷うだろ? 弓月殿の許に駆けつけるか。神剣を探すか」

「当たり前だ……そんな」

「俺だったら迷わない。あの時はまだ、確信はなかったし――だから、言わなかった。すまん」
 

新蔵は少し間を空け、乙矢に尋ねた。


「お前はまだ、一矢のことを死なせたくない、と思ってるのか?」

「……ああ」


< 351 / 484 >

この作品をシェア

pagetop