弟矢 ―四神剣伝説―
「弓月殿。お待たせ致しました」


柔らかな声も、温かな笑顔も、弓月が間違えるわけがない……乙矢だ。
 

弓月の瞳は一瞬で熱くなる。

そのまま、乙矢の元に駆け寄ろうとした時、後ろから弓月を呼ぶ声が聞こえた。


『弓月殿……』


襖の向こう、廊下の中央に立っていたのは正三だ。


『弓月殿……』


もう一度呼んだ。

正三に名前で呼ばれたのは何年ぶりであろう。子供の頃は名前で呼んでいたはずなのに、気がつけば「姫様」と呼ぶようになっていた。

元々、細かい所に気の回る弓月ではない。正三の気に入るように呼べば良いと思っていたが……。ひょっとすれば、意味のあることだったのかも知れない。


『弓月殿……確かに、乙矢殿をお連れ致しました』


正三はそう言うと静かに微笑み――


< 359 / 484 >

この作品をシェア

pagetop