弟矢 ―四神剣伝説―
弓月の心は混迷の只中にあった。

乙矢が鬼となり正三を殺した? その乙矢の首を新蔵が刎ねた? 嘘だ、と思う反面、乙矢の意思ではなく、奴らによって鬼にされてしまったのだとしたら? 

里を出なければよかった。正三を置いて来なければよかった。新蔵を破門しなければ……何もかも、決断のすべてが悔やまれる。

もし、乙矢に二度と会えないのなら……。あの一矢や仮面の男を倒し、神剣を取り戻したとしても、その先の人生になんの意味があるのだろう?

皆で一緒に東国の領地に戻り、遊馬家を再興する。

そして、弓月は乙矢と寄り添い、彼の子供を産んで、お互いが失った家族を手に入れるのだ。


そんな小さな未来への希望を失い、弓月はふらつく。

踏み締めた足の下で、再び枝が折れる音が聞こえ――


「いやあぁぁぁっ!」
 

――その音と共に、弓月の心は、儚くも折れてしまった。


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