弟矢 ―四神剣伝説―
里を出てからは、一矢に従うばかりとなっていた凪が、今回はきっぱりと拒絶した。


「なるほど、私の言葉など信じられぬと……」

「如何ようにも」


そのあまりにも突き放した凪の様子に、一矢の気配は次第に凶悪さを漂わせ始めた。

一同のただならぬ気配に、夜が明ける寸前のしんとした空気が、この部屋だけ避けて行くかのように感じる。


「勇者の力は要らぬ、と」

「この身にも勇者の血は流れております。その血が、戻れと言っている」


スッと凪は刀の鞘に手を掛けた。

それに呼応するように、弓月も刀を取る。長瀬は既に抜いていた。

遊馬一門の拒否に、一矢からあからさまな殺気が湧き立つ。


まさに、一触即発。


だが、一矢は頬を緩めると、弓月らに背を向けた。


「わかりました。仕方あるまい。あなたを妻にすることは諦めよう。どうぞお行きなさい。私も、あれは誤報で皆無事であることを願っております。では、南国で」


その瞬間、一矢は肩越しに、乙矢を思わせる微笑を湛えた。

弓月はこの時、二人が双子の兄弟であることを、ひさかた振りに思い出したのである。


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