弟矢 ―四神剣伝説―
山あいを抜けるとすぐに津山の宿だ。そのまま直進すれば美作に戻る。夕刻までには辿り着けるかも知れない。だが、そこはあらゆる意味で危険な道だった。

凪の言葉で、一行は津山の手前を北東に折れた。

多少遠回りになるが、往路とは別の道を選んだのである。そのため、どれほど急いでも徒歩なら里まで丸一日は掛かってしまう。

もちろん、一矢を警戒してのことだった。

後をつけられて気付かぬほど、凪も弓月も鈍くはない。だが挟み撃ちに遭っては防ぎようがない。こちらはわずか三人と一人前には足りない弥太吉を連れている。


遊馬一門の目標は「おとや」と言われる人物に会い、弓月の許婚である一矢と再会を果たすこと。そして、彼に神剣を抜いてもらうことだった。


目的はすべて果たされたというのに、事態は一つも変わってはいない。いや、むしろ敵が増えてしまった。


(乙矢どの……なんとしても、生きていてください。さもなくば……)


「凪先生っ!」


長瀬の声に、全員が意識を前方に集中させる。

まだ、山あいを抜けたばかりだ。なのに、津山近郊に蚩尤軍兵士の気配を感じる。それは相当な数だった。どうやら、津山城下に蚩尤軍兵士を集結させたと見える。しかも、城よりかなり離れた山沿いに百を超える兵士など……。

この分なら、本隊は千に届くだろう。


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