弟矢 ―四神剣伝説―
「弥太……凪先生の勘違いであろう?」


弓月らは、敵の目に入らぬ位置まで後退を余儀なくされた。その上で、弓月は優しく問い掛ける。

だが、長瀬はそれでは納まらぬようだ。


「弥太! 貴様、我ら一門を裏切ったのか? 凪先生も、それに気付きながら、何ゆえ」

「いえ、そうではありません。長瀬どのの言葉に、弥太吉の気配が変わりました。心当たりがある、ということでしょう。そうなのであろう?」

「おいらはただ……姫さまが心配だと……そう一矢さまが……勇者さまに言われたから」

「弥太! そこに直れっ!」

「よせ! 長瀬」


刀の柄に手を掛ける長瀬を、弓月が引き止める。


「か、一矢さまは神剣を持っておられるのだから、勇者さまに違いないんだ! おいらは……四天王家の一員として、勇者さまの言うとおりにしただけだ!」


少年の目は、里で別れた時の新蔵の瞳に酷似していた。

だが凪には、弥太吉の目の色までは見えるはずもなく。それに目にしたとき、弓月は自分が気付くべきだったと、愕然とする。 


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