弟矢 ―四神剣伝説―
「信じているから、乙矢殿を殺さなかったのだ。貴様のせいで、自信も自尊心も失った乙矢殿に、神剣を抜かせるために我らと会わせた。武藤や狩野らに襲わせたのもそうだ。鬼を作ったのも、そのためとしか思えない! だが、ならばなぜ里を狙った? 乙矢殿が鬼というなら、早々に『青龍』を持たせ、我らを襲わせれば良かったものを」

「里はついでだ。勇者の血を引くあの男、織田正三郎は危険だ。次は『青龍』一本なら使いこなすやも知れぬ。そして、私の顔を見たあの小娘。口が聞けるようになれば、余計なことを言い出さぬとも限らん。事が終われば、私は勇者として西国の領地に戻り、爾志家を復興する。これよりは、爾志家が四神剣、四種五本の神剣を守ることになる」


一矢は己の企てを、薄ら笑いを浮かべながら平然と話す。

弓月が、おきみの言わんとしたことに気付いたのはこの時だ。卑怯も何もない。一矢の誘導にまんまと引っ掛かったのは自分たちだった。


「では、新蔵に乙矢殿を追わせたのは何故だ! 貴様、新蔵に何をした!?」


弓月の問いに何かを思い出したのか、さも可笑しそうに一矢は話した。


「ああ、あの役立たずか? 奴はおぬしに惚れておった。乙矢を殺せばおぬしが手に入る、と刷り込んでやれば……簡単に心を明け渡しおったわ。『青龍二の剣』で乙矢を襲うように仕向けたまでのこと」


膝だけでなく、弓月は腕も肩も小刻みに震え始めた。


「まさか……本当に皆を殺したと言うのか……まさか」

「嘘だと思っておったのか? めでたいな。なぁに、心配せずとも良い。すぐに仲間を送ってやろう。だが、おぬしは殺さぬ。おぬしを乙矢にだけは渡さぬぞ」


そう言うと、一矢はスッと『朱雀』の柄を握り締めた。


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