弟矢 ―四神剣伝説―
「抜けぬ、だと? 愚かなおなごよ」

 
その言葉と同時に、薄紅に艶めく刀身が滑るように鞘から姿を見せた。


弓月は自分の目を疑う。


「そ、そんな、馬鹿な」


(一矢も勇者なのか? 『朱雀』の鬼が選んだ『朱雀の主』なのか?)


弓月は折れそうになる心を懸命に励ましつつ、両足で地面を踏み締めた。息を止めると、自身の刀を抜き放つ。
 
 

一矢はそんな弓月の反応を見て、低い声で嘲笑した。


「神剣を抜くのは心地良い。女子を抱くより、もっとだ。乙矢も……さぞ興奮したであろうな」


卑猥な言葉に、弓月は頬を赤らめた。しかも、わざと乙矢の名前を引き合いに出し、挑発する。


一矢はまともに剣を構えようとせず、片手で『朱雀』を弄んだ。

弓月は、その揺れる剣先に危うく意識が散らされそうになる。それもこの男の計略に違いない。弓月は必死で一矢の心中を推し量った。


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