弟矢 ―四神剣伝説―
「中々どうして、さすがは遊馬の姫だ。やはり、殺すのは惜しい。――知っておるか? 過ぎたるは、なお、及ばざるが如し、とな」
そう言うと『朱雀』を鞘に納め、一矢は後ろに下がった。
「なぜ下がる? 私では、貴様の相手に役者が足らぬとは言うまいな」
「足りておるから言ったのだ。楽しみが過ぎては次がなくなる」
「楽しみ、だと? 貴様、己の快楽にために神剣を抜くのかっ!?」
それではあまりに乙矢が不憫だ。自らを二番矢、弟矢と称し、兄矢が勝ち続けるためならなんでもすると言った。兄を勇者と信じ続けた乙矢は――。
「この剣は私を最強の剣士だと言う。私もそう思っている。――ああ、殺すな、生け捕りにするのだ」
最後の言葉は、一矢の代わりに前に出た、蚩尤軍兵士に言ったものだった。
二人の兵士が弓月を左右から挟む。その中には、一矢と森で会っていた男はいなかった。
弓月が足の親指に力を入れたその時、
「うおぉぉぉぉっっ!」
背後で『白虎の鬼』の咆哮が上がった。
そう言うと『朱雀』を鞘に納め、一矢は後ろに下がった。
「なぜ下がる? 私では、貴様の相手に役者が足らぬとは言うまいな」
「足りておるから言ったのだ。楽しみが過ぎては次がなくなる」
「楽しみ、だと? 貴様、己の快楽にために神剣を抜くのかっ!?」
それではあまりに乙矢が不憫だ。自らを二番矢、弟矢と称し、兄矢が勝ち続けるためならなんでもすると言った。兄を勇者と信じ続けた乙矢は――。
「この剣は私を最強の剣士だと言う。私もそう思っている。――ああ、殺すな、生け捕りにするのだ」
最後の言葉は、一矢の代わりに前に出た、蚩尤軍兵士に言ったものだった。
二人の兵士が弓月を左右から挟む。その中には、一矢と森で会っていた男はいなかった。
弓月が足の親指に力を入れたその時、
「うおぉぉぉぉっっ!」
背後で『白虎の鬼』の咆哮が上がった。