弟矢 ―四神剣伝説―
『白虎の鬼』と化した狩野は、片腕で近くにいた蚩尤軍兵士二人をあっという間に斬り捨てた。

だが、二人では足りぬと雄叫びを上げ続ける。

狩野は勢いをつけて、斬り合う直前の弓月らの中に飛び込んで来た。弓月の右手にいた兵士は、狩野に斬られ息絶える。


次は、弓月の番だ。


鬼の剣と刀を合わせるのは、高円の里に次いで二度目。あの時は、それほど腕の立たぬ男を鬼にしたようだが今回は違う。

狩野の両眼は、曇天の如き薄墨の色をしていた。それは、時折色の濃淡が変わる。そして、だらしなく開いた口元からは想像できぬような、俊敏な動きで斬りかかった。
 

「クッ!」


弓月は、鬼の攻撃を避けようとしたが間に合わない。

咄嗟に刀で受けるが――剣先が折れ飛んだ。そのまま、白刃が弓月の頭上に迫る。


「――伏せて!」


凪の声だ。何処から聞こえたのか、どうするつもりか全くわからない。だが、弓月は声と同時に地面に抱きついた。

弓月の姿が消えた瞬間、その真後ろから凪の刀が真っ直ぐに狩野を貫いた。刃は心の臓を突き差す――それは深く、鍔の部分が狩野の体に触れるほど食い込んでいた。

背中から突き出た刀身が一尺以上ある。

凪がどれほど弓月を信頼し、迷わず飛び込んだかわかろうものだ。一つ間違えば弓月を串刺しにする所だった。しかし躊躇えば、『白虎』は弓月を二つに斬り裂いていただろう。


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