弟矢 ―四神剣伝説―
軽く頭を下げる凪の横から、弓月が口を挟んだ。


「乙矢殿、こうして来て下さったということは、何か、この場から逃れる手段をお持ちですか?」


どうも、弓月を真っ直ぐに見ることができない。乙矢は、わざとらしく彼女から視線を外しながら答えた。


「宿場に戻る。あそこだけなら常駐の三十人程度だ。あんたら強いんだろ? それくらいどうにかしてくれるよな」
 
「ほう。我らを盾にする気か! 貴様、いい度胸だ!」


どうあっても、喧嘩を売りたい素振りの新蔵を押しのけ、長瀬が訊ねた。


「戻って何処へ向かう。街道を上るのは正気の沙汰ではあるまい」

「街道を横切って海側に抜けるか。一旦、西に下ってから北上するか。そんなことそっちで考えろよ」
 

そこに弓月が、


「乙矢殿はどうなさいますか?」

「俺は……この連中さえ撒いて、あんたらが無事逃げ切ってくれたら、またそれなりに細々とやるさ。奴らが本当に釣り上げたいのは一矢だからな」

「弓月様! こやつは信用できません! 罠かも知れません!」

「だが、罠だとしてもこのまま山に籠もっている訳にも行くまい。一丁試してみるか?」

「織田さん、試して本当に罠であった時はどうするつもりですか!?」

「では新蔵。お前に、奴以上の策はあるのか?」


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