弟矢 ―四神剣伝説―
凪は、高円の里での鬼の戦いぶりを見ていなかった。もし見ていれば、このような失態は犯さなかったはずだ。
それは、全くの無意識だった。
風が斬られる音に、素早く左に飛ぶ。さもなくば、彼の胴は真っ二つになっていただろう。
「凪先生っ!」
弓月の叫び声に弥太吉は立ち止まり、すぐさま凪に駆け寄ろうとした。
「来るなっ!」
凪は脇差を構え立ち上がる。だが……右足元に鮮血に染まり、地面にも滴り落ちた。
「凪先生、引いて下さい。私が……」
「誰も来てはならぬ。……近づくな」
狩野は心の臓に刀を刺したまま、ゆらゆらと立っていた。気配はまるでない。屍に気配などあろうはずかない、と言うべきか。
だが、救いはあった。
尋常ならざる狩野の姿に、凪が恐れることはない、ということだ。
そこは山あいの狭い場所。森に程近い位置に、一矢は立つ。
一矢に一番近いのは弓月だ。そして弥太吉。右手の利かぬ長瀬は、街道寄りの位置で敵兵二人の相手をし、苦戦の末、ようやく叩き伏せた所だった。
その時、街道側から馬蹄の音が響いた。
それは、全くの無意識だった。
風が斬られる音に、素早く左に飛ぶ。さもなくば、彼の胴は真っ二つになっていただろう。
「凪先生っ!」
弓月の叫び声に弥太吉は立ち止まり、すぐさま凪に駆け寄ろうとした。
「来るなっ!」
凪は脇差を構え立ち上がる。だが……右足元に鮮血に染まり、地面にも滴り落ちた。
「凪先生、引いて下さい。私が……」
「誰も来てはならぬ。……近づくな」
狩野は心の臓に刀を刺したまま、ゆらゆらと立っていた。気配はまるでない。屍に気配などあろうはずかない、と言うべきか。
だが、救いはあった。
尋常ならざる狩野の姿に、凪が恐れることはない、ということだ。
そこは山あいの狭い場所。森に程近い位置に、一矢は立つ。
一矢に一番近いのは弓月だ。そして弥太吉。右手の利かぬ長瀬は、街道寄りの位置で敵兵二人の相手をし、苦戦の末、ようやく叩き伏せた所だった。
その時、街道側から馬蹄の音が響いた。