弟矢 ―四神剣伝説―
「そうです、凪先生! 誰も死んでなどおりませぬ。私も、必ず生きて乙矢殿に逢いとうございます。――弥太、勇者はおります! 神剣は護国の剣、鬼の剣ではありません。我らが信じなければ、死んで行った父上や兄上……一門の者に、なんと申し開きをするのです!」


確信めいた弓月の言葉に、弥太吉の心は揺れた。


「で、ですが……誰ひとり……鬼にならなかった者など……いないではありませんか」


その声は涙に震えている。

弥太吉は恐ろしかった。もう一度信じて、再び裏切られることが……。そしてそれは、真実を見極められなかった、自らの失態を認めることになる。


「乙矢殿がおります! 乙矢殿は、鬼の声に否と申された。あの方こそ、真の勇者なのです!」

 
乙矢を信じる――そう言い切った弓月の双眸に、いつぞやの凛とした強さが甦る。


それは弓月にとって、真如(しんにょ)の月とも言うべき瞬間だった。


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