弟矢 ―四神剣伝説―
それは、狩野の振り下ろす『白虎』より早かった。

街道より、長瀬の真横を掠め、一本目が狩野のこめかみを貫き、二本目が膝の関節を砕いた。

狩野は一瞬動きが止まり、均衡を崩す。遅れて振り下ろした神剣は、弓月の身体を一寸逸れ、雑草の根を切断した。


頭部を真横に矢が刺さっている。

そんな姿で、狩野は再び神剣を持つ左腕を振り上げた。それは、一矢の命令に従っている訳ではない。手にした『白虎』の求めるまま、血を欲するだけだ。

弓月は弥太吉を逃がし、刀を構え、鬼を見据える。


二人を救った矢は、馬上から放たれたものだった。

蚩尤軍の一団から抜け出た馬は、二人の人間を乗せている。逆光を受け、馬上の人物の顔は、弓月らには見えない。

馬は一団の真ん中を突っ切り、すれ違い様、後ろに乗った一人が弓月の真横に飛び降りた。

左手で弓柄(ゆづか)を握り、右手にのみ弓懸(ゆがけ)を巻いている。

そして、腰には見覚えのある一本の剣――『青龍一の剣』。


「乙矢殿!」


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