弟矢 ―四神剣伝説―
「いささか、遅くはありませんか? 勇者はもう少し早く駆けつけるものですよ……乙矢どの」


凪の口元が、微かにほころんだ。肩を大きく上下させ、荒い息を繰り返しながらも、ようやくいつもの余裕が覗える。


「いささかではござらん。遅すぎるであろう。もっと早く来んか!」


感激など微塵も見せず、長瀬は頭ごなしに怒鳴りつけた。


「無茶言うなよ。これでも、丸二日寝てねぇんだぞ……」


見事な戦いぶりとは裏腹に、小声で反論しつつ、無造作に髪をかき上げた。そして、弓月の方を向き直り……


「待たせて悪い……色々あってさ……あの」


弓月は乙矢を見上げる。そして、今にも零れ落ちそうな雫を必死に堪えた。
 

「感動のご対面を邪魔して悪いが……。そいつ、えらくやばそう剣を持ってないか?」


新蔵が馬から飛び降りながら、狩野を指して言う。


「ああ、あれが――爾志家の守護する、神剣『白虎』だ」
 

そう言うと、乙矢は『青龍一の剣』を抜き放った。


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