弟矢 ―四神剣伝説―
一矢の手は小刻みに震え『一の剣』を掴めない。
乙矢は、ここぞとばかりに、更に一矢をけしかけた
「さあ! 『青龍』に選ばれる自信があるなら抜いてみろっ!」
これがハッタリであれば、一矢にはわかっただろう。だが、すべてが乙矢の真意。その言葉に嘘はなかった。“抜けるわけがない”ではなく、本当に“抜け”と言っている。一矢が勇者であれ、鬼であれ、乙矢に恐れることはない。
ほんの二日前まで、乙矢は自分の内に眠る奔流など気づくこともなかった。
一矢は、そんな弟を目覚めさせたことに身震いする。そして、乙矢の奥底から噴き出す気迫に、些末ながら恐怖を感じていた。
その間隙を見逃すほど、新蔵も愚かではない。脇差から逃れると同時に、一矢の顔面に目潰しの赤土を投げつけた。そして、なんと新蔵は、一矢の腰から『朱雀』を奪い取る。
「これで鬼にはなれまいっ!」
「新蔵……後ろだ!」
一矢も只者ではなかった。躊躇わず、『青龍一の剣』の柄を握り、抜き様に新蔵を斬り捨てようとする。
思わぬ新蔵の動きに不覚を取った乙矢だが、即座に立ち直り、一矢に向かって鞘を投げつけた。
だが、その程度では一矢を止めることはできない。乙矢は無刀取りで『青龍一の剣』を押さえ込もうと、白刃の下に滑り込む。
瞬時、一矢は剣を引く。
乙矢は、危うく鍔元(つばもと)を掴みそうになり――直後、『青龍一の剣』の刃は乙矢の右肩に吸い込まれた。
乙矢は、ここぞとばかりに、更に一矢をけしかけた
「さあ! 『青龍』に選ばれる自信があるなら抜いてみろっ!」
これがハッタリであれば、一矢にはわかっただろう。だが、すべてが乙矢の真意。その言葉に嘘はなかった。“抜けるわけがない”ではなく、本当に“抜け”と言っている。一矢が勇者であれ、鬼であれ、乙矢に恐れることはない。
ほんの二日前まで、乙矢は自分の内に眠る奔流など気づくこともなかった。
一矢は、そんな弟を目覚めさせたことに身震いする。そして、乙矢の奥底から噴き出す気迫に、些末ながら恐怖を感じていた。
その間隙を見逃すほど、新蔵も愚かではない。脇差から逃れると同時に、一矢の顔面に目潰しの赤土を投げつけた。そして、なんと新蔵は、一矢の腰から『朱雀』を奪い取る。
「これで鬼にはなれまいっ!」
「新蔵……後ろだ!」
一矢も只者ではなかった。躊躇わず、『青龍一の剣』の柄を握り、抜き様に新蔵を斬り捨てようとする。
思わぬ新蔵の動きに不覚を取った乙矢だが、即座に立ち直り、一矢に向かって鞘を投げつけた。
だが、その程度では一矢を止めることはできない。乙矢は無刀取りで『青龍一の剣』を押さえ込もうと、白刃の下に滑り込む。
瞬時、一矢は剣を引く。
乙矢は、危うく鍔元(つばもと)を掴みそうになり――直後、『青龍一の剣』の刃は乙矢の右肩に吸い込まれた。