弟矢 ―四神剣伝説―
今、目の前にいるのは許婚の一矢ではなく、弟の乙矢である。
何度も……何度も、弓月は自分の胸に言い続けている。この縁談は、慣例に従い、両家の宗主が決めたことだ。一年前には弓月自身も結納式に立ち会い、一矢を生涯の夫と定めたはずであった。
それなのに、先夜、暗闇に乙矢の顔を見た瞬間、一矢と出会った時とは比べ物にならないほどの衝撃を覚えた。
それ故に、弓月は当初、一矢が身を守るために弟のふりをしているのに違いない、と思ったほどだ。
しかし……落ち着いて考えると、自尊心と自信の塊のように見えた一矢が、生きるためとはいえ命乞いなどするだろうか?
答えは『否』だった。
そう思ってみると、あちこちの印象が一矢とは違うことに気付く。
次第に、弓月は必死になって、兄弟の相違点ばかり探そうとしていた。その結果、やはり一矢ではないと思うたび、胸が高鳴るのだ。それが何を意味するのか、彼女自身に認められるはずがない。
目の前の男は、およそ情けない姿を晒している。打ちのめされ、小便を漏らして命乞いをする様など、百年の恋も冷めようというものだ。
何度も……何度も、弓月は自分の胸に言い続けている。この縁談は、慣例に従い、両家の宗主が決めたことだ。一年前には弓月自身も結納式に立ち会い、一矢を生涯の夫と定めたはずであった。
それなのに、先夜、暗闇に乙矢の顔を見た瞬間、一矢と出会った時とは比べ物にならないほどの衝撃を覚えた。
それ故に、弓月は当初、一矢が身を守るために弟のふりをしているのに違いない、と思ったほどだ。
しかし……落ち着いて考えると、自尊心と自信の塊のように見えた一矢が、生きるためとはいえ命乞いなどするだろうか?
答えは『否』だった。
そう思ってみると、あちこちの印象が一矢とは違うことに気付く。
次第に、弓月は必死になって、兄弟の相違点ばかり探そうとしていた。その結果、やはり一矢ではないと思うたび、胸が高鳴るのだ。それが何を意味するのか、彼女自身に認められるはずがない。
目の前の男は、およそ情けない姿を晒している。打ちのめされ、小便を漏らして命乞いをする様など、百年の恋も冷めようというものだ。