弟矢 ―四神剣伝説―
神剣同士の戦いに割り込むのは至難の技だ。ましてや、乙矢は素手。弓月を押さえる為、一矢に背を向ければ確実に斬られる。

逆でも、今の弓月なら乙矢すら斬りかねない。


「乙矢っ!」


新蔵が、乙矢目掛けて長刀を放り投げた。それを受け取ると躊躇うことなく弓月の前に飛び出した。


「弓月殿! 神剣を離すんだ!」


弓月の『朱雀』を避けた次の瞬間には、後方から一矢の『青龍』が襲い掛かる。

乙矢の手にある刀では、まともに斬り合うことは不可能だ。

双方の剣を避け、ひたすら弓月の心が取り込まれないように叫び続けた。


「弓月殿――俺を見ろっ! 『朱雀』を俺に渡せ。弓月殿!」

「邪魔をするなっ! 奴は殺さねばならぬ。殺さねば、乙矢殿まで殺されるのだ。勇者などどうでもよい! この身を鬼に変えても、私が奴を殺す!」

「落ち着けよ。俺は死なない! もう、誰も死なせない。俺が皆を守る。だから、俺にその剣を渡してくれ。さあ!」

「退け! 退かねば――貴様を斬る!」


少し離れた位置にいた凪たちは、弓月の言葉に息を呑んだ。

既に、目の前に立つ男が、乙矢であることすらわからなくなり掛けている。弓月の瞳に、赤いものが混じり始め――。

弓月は『朱雀』を振り上げ、火の構えで乙矢を威圧した。

それは、新蔵が得意な一撃必殺、右上段の構え。弓月は右足を半歩踏み出し、剣先を左斜め後方に振りかぶった。そして、気合を発すると――言葉の通り、乙矢に斬りかかった。


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