弟矢 ―四神剣伝説―
ところが、弓月は、そんな乙矢に駆け寄り庇いたい衝動に駆られた。

『そなたを守って差し上げる』あの言葉は、そんな想いが、つい口を突いて出てしまっただけだった。

凪があの場にいたなら、完全に悟られていたであろう。正三はなんとなく察したようだ。しかし、そちらの方面には疎い二人が、気付くことはなかった。


皆が落胆を口にする中、表面上は同意しながらも、弓月の心はそれに反し続けている。


一矢の姿には、確かに、運命を感じた。

しかし、彼と話すたび、その心を知るたびに、弓月の胸に違和感が降り積もった。その正体が、一年も経って、しかもこんな状況でわかったとして、どうなると言うのか?

 
それを知りつつ――。

もっと乙矢のことを知りたい。このまま離れたくない。張り詰めた心の隙に芽生えた、小さな想いを打ち消す事のできない弓月だった。


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