弟矢 ―四神剣伝説―
一方の一矢は、乙矢の考えを知ってか知らずか……。
「だが乙矢、貴様がよもや私を疑うことはあるまいと思っていたが。おなごが絡めば、ただの腰抜けではおられぬということか」
一矢は自分が『白虎の勇者でないこと』を知っていた。
乙矢にも神剣を抜かせ、自分と同じだと証明したかったのだ。ところが、そこに大きな誤算があった。一矢は、乙矢が『勇者である』という可能性を、自ら指し示してしまった。
更に一矢は、この期に及んでまだ、腰抜けの弟を欲していた。
口汚く罵り、力で押さえつけ、自分が上位であると乙矢に言わしめたい。しかしその思いは、『朱雀』の思惑とは異なった。
乙矢は、様々な可能性を素早く頭で計算しつつ、一矢に答えた。
「違う。蚩尤軍と繋がってるって、お前自身が言ったんだぜ」
一矢は怪訝そうに乙矢を見る。
「何を言う。貴様にそのようなことを言った覚えはない」
その瞳は虚ろで、乙矢を馬鹿にしたようにせせら笑った。
「里で……『白虎』を蚩尤軍に渡した俺を責めただろう? 俺は、姉上は攫われたと言ったんだ、それをお前は――」
――『姉上も、武藤とやらに辱めを受け、首を吊って果てたのではないか』
すぐには気付かなかった。だが、乙矢が里を離れ新蔵に襲われた時、霧が晴れるように、様々なものが見えた。
「だが乙矢、貴様がよもや私を疑うことはあるまいと思っていたが。おなごが絡めば、ただの腰抜けではおられぬということか」
一矢は自分が『白虎の勇者でないこと』を知っていた。
乙矢にも神剣を抜かせ、自分と同じだと証明したかったのだ。ところが、そこに大きな誤算があった。一矢は、乙矢が『勇者である』という可能性を、自ら指し示してしまった。
更に一矢は、この期に及んでまだ、腰抜けの弟を欲していた。
口汚く罵り、力で押さえつけ、自分が上位であると乙矢に言わしめたい。しかしその思いは、『朱雀』の思惑とは異なった。
乙矢は、様々な可能性を素早く頭で計算しつつ、一矢に答えた。
「違う。蚩尤軍と繋がってるって、お前自身が言ったんだぜ」
一矢は怪訝そうに乙矢を見る。
「何を言う。貴様にそのようなことを言った覚えはない」
その瞳は虚ろで、乙矢を馬鹿にしたようにせせら笑った。
「里で……『白虎』を蚩尤軍に渡した俺を責めただろう? 俺は、姉上は攫われたと言ったんだ、それをお前は――」
――『姉上も、武藤とやらに辱めを受け、首を吊って果てたのではないか』
すぐには気付かなかった。だが、乙矢が里を離れ新蔵に襲われた時、霧が晴れるように、様々なものが見えた。