弟矢 ―四神剣伝説―
蚩尤軍精鋭部隊と呼ばれる連中の、不可解な行動も気になった。だが、一矢が姉の死に様を知っていたことに、乙矢は疑問を覚える。
「俺はあの時まで、姉上の不名誉を人に話したことはなかった。この手で木から下ろし、父上母上と共に埋葬した。武藤にも聞いたんだ。奴がお前に話してたら、きっと自慢げにお前に告げたことを言ったはずだ。でも奴はそんなことは言わなかった。――お前は誰に聞いた? 何処で知ったんだ?」
冷静に話すつもりだった。だが、腹の底からこみ上げるものが、乙矢の声を震わせる。
「一矢――あの日仮面を被り、俺の目の前で『白虎の鬼』を殺したのはお前か? 俺を嘲笑ったのはお前だったのかっ!? 答えろ、一矢っ!」
ゆらゆらと、一矢の体は蝋燭の炎のように揺らめいて見えた。
何も答えない。その表情にも、罪悪感めいたものは何も浮かんではいなかった。双子の兄を疑うことは、自らの腕を引き千切るような痛みを伴う。それを承知で、乙矢は兄を断罪した。
しかし、一矢の沈黙は、答えに窮している様子ではない。まるで他人事のようだ。
どうやら、一矢が耳を貸しているのは『朱雀の鬼』の声のみ。一矢の視線は定めぬまま、声にならぬ呟きを口の中で繰り返していた。
その間も、乙矢はゆっくりと立ち位置を一矢より有利な方向に移動させていた。
そして、一矢より近づいた、と感じた一瞬――乙矢は身を翻す。そこには、未だ死に切れずに蠢く狩野の左腕があった!
「俺はあの時まで、姉上の不名誉を人に話したことはなかった。この手で木から下ろし、父上母上と共に埋葬した。武藤にも聞いたんだ。奴がお前に話してたら、きっと自慢げにお前に告げたことを言ったはずだ。でも奴はそんなことは言わなかった。――お前は誰に聞いた? 何処で知ったんだ?」
冷静に話すつもりだった。だが、腹の底からこみ上げるものが、乙矢の声を震わせる。
「一矢――あの日仮面を被り、俺の目の前で『白虎の鬼』を殺したのはお前か? 俺を嘲笑ったのはお前だったのかっ!? 答えろ、一矢っ!」
ゆらゆらと、一矢の体は蝋燭の炎のように揺らめいて見えた。
何も答えない。その表情にも、罪悪感めいたものは何も浮かんではいなかった。双子の兄を疑うことは、自らの腕を引き千切るような痛みを伴う。それを承知で、乙矢は兄を断罪した。
しかし、一矢の沈黙は、答えに窮している様子ではない。まるで他人事のようだ。
どうやら、一矢が耳を貸しているのは『朱雀の鬼』の声のみ。一矢の視線は定めぬまま、声にならぬ呟きを口の中で繰り返していた。
その間も、乙矢はゆっくりと立ち位置を一矢より有利な方向に移動させていた。
そして、一矢より近づいた、と感じた一瞬――乙矢は身を翻す。そこには、未だ死に切れずに蠢く狩野の左腕があった!