弟矢 ―四神剣伝説―
凪と長瀬の横を、戸板に乗せられた一矢が、通り過ぎようとしていた。

兵士を手で制しつつ、凪が一矢に声を掛ける。


「一矢どの、最早あなたの企てはここまでです。協力者の名前を教えて下さい」

「……そんなものは、おらぬ。すべて、私が計画し……遂行した」


魂の抜けた木偶(でく)のように、一矢は中空を見据えたまま答える。

凪の質問の意味が長瀬にはわからない。なぜこの時になって、突然一矢に協力者がいると言い出したのか……。


「凪先生、それはどういった意味でござるか? こやつが仮面の男で相違なかろう。何を今更」

「長瀬どの。我ら四天王家は互いに連絡を取り合う間もなく、次々に襲われたのです。西国から東国まで早駆けの馬で約五日。一矢どのが東国を発たれて三日後、我が遊馬家は襲われた――」


その翌日、凪は領内の隠れ里の一つで、四天王家にかけられた嫌疑と、幕府から差し向けられた蚩尤軍兵士の狼藉を聞いたのだ。そして、兄たちの最期を知ったのは、弓月と合流した後だった。


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