弟矢 ―四神剣伝説―
時を同じくして、西国からの早馬が次々と訃報を告げた。帰路の一矢や西国の爾志家も、遊馬同様に襲われことを、その時知ったのである。


「早馬の到着時期から、西国の襲撃は我らより前。となれば、それはどう計算しても、一矢どのが東国の領内におられた時期と重なるのです。遊馬家を襲った仮面の男は、途中で取って返した一矢どのとしても、一矢どのに爾志は襲えません。先に襲われた乙矢どのは、おそらく、我らが襲われた日付を詳しくは知らぬのでしょう」


凪の説明を黙って聞いていた長瀬が口を開いた。


「仮面の男は……二人いる?」


凪は無言でうなずくと、再び一矢に問う。


「一矢どの。東国でお会いしたあなたは、確かに、何かに渇望されていました。先ほどの言葉から、お父上の信頼と愛情を乙矢どのより少しでも多く、ご自分に向けて欲しいと願ったのでしょう。でも、それは本当に、ご家族の命と引き替えにしても――でしょうか?」


その言葉は一矢の耳に聞こえているのかどうか……。

兵士らは次第に苛々を見せ始め、凪に一礼すると、そのまま一矢を運んで行こうとした。その時である。一矢はボソッと呟いた。


「……『朱雀』が言った。私を選ばなかった『白虎』に勝たせてやる。『朱雀』の勇者にしてやる、と……」

「一矢どの、それは」


悲鳴が上がったのはその直後だった。


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