弟矢 ―四神剣伝説―
辺りを取り囲む兵士らは、鬼の恐怖に打ち震え、我先にと逃げ始めた。


「乙矢っ! 『朱雀』がなんであんな場所にあるんだ!」


新蔵の声に、乙矢は右足を引き摺りながら立ち上がろうとする。

だが、不覚にもよろめき、ブナの木に寄り掛かった。白い幹がわずかに揺れて、青々と茂る若葉の隙間から、乙矢の頭上に光が降り注ぐ。


「くそったれ! まだ諦めないつもりか、あの『朱雀』は。一矢を狂わせ、これだけの人間の血を吸って――まだ足りないってのか!?」


乙矢の怒声に新蔵は振り返り、息を飲んだ。

光が再び乙矢に集まり『白虎』を輝かせている。『朱雀』に反応しているのだ。新蔵はそう思いながら、改めて正三の判断に間違いはなかったのだ、と胸を熱くした。


「おいっ! ヤバイぞ、新蔵!」


切羽詰った声に新蔵も慌てて乙矢の視線の先を探した。


そこにいたのは……弓月だった。


< 435 / 484 >

この作品をシェア

pagetop