弟矢 ―四神剣伝説―
第十章 決戦の森
一、『青龍』の勇者
弓月は『青龍一の剣』を左手に持ち、足を開き、腰を落とした。そして、右手はしっかりと柄を握り締める。
「……姫さま」
「弥太、下がっておれ」
「ですが、姫さまっ」
弥太吉の声は掠れ、顔色は青褪めていた。搾り出すように弓月の名を呼ぶのが精々だ。彼は疲労困憊の極致だった。
だがそれは、弓月にしても同じこと。一矢を倒すことで全てが終わったと思っていた。
凪のように、一矢に協力者がいるなど想像もしていない。
しかし、『青龍』を掴んだ瞬間、弓月の心に溢れんばかりの力が並々と注ぎ込まれた。
「乙矢殿の望みであれば、さしたる理由など要らぬ」
弥太吉にそう言い放つと、弓月は向かってくる『朱雀の鬼』をしっかりと見据えた。左手親指で鍔を押し上げ、素早く左足を引く。
鬼の背中には無数の刀傷があった。矢も三本刺さっている。いずれも致命傷とも言うべき傷に見える。だが、鬼は奇声を発し、『朱雀』を大きく振り被ると、弓月に対して飛び込むように振り下ろした。
周囲などまるで目に入っていない。それは、弓月だけを殺せ、と命じられたかの如く。
「……姫さま」
「弥太、下がっておれ」
「ですが、姫さまっ」
弥太吉の声は掠れ、顔色は青褪めていた。搾り出すように弓月の名を呼ぶのが精々だ。彼は疲労困憊の極致だった。
だがそれは、弓月にしても同じこと。一矢を倒すことで全てが終わったと思っていた。
凪のように、一矢に協力者がいるなど想像もしていない。
しかし、『青龍』を掴んだ瞬間、弓月の心に溢れんばかりの力が並々と注ぎ込まれた。
「乙矢殿の望みであれば、さしたる理由など要らぬ」
弥太吉にそう言い放つと、弓月は向かってくる『朱雀の鬼』をしっかりと見据えた。左手親指で鍔を押し上げ、素早く左足を引く。
鬼の背中には無数の刀傷があった。矢も三本刺さっている。いずれも致命傷とも言うべき傷に見える。だが、鬼は奇声を発し、『朱雀』を大きく振り被ると、弓月に対して飛び込むように振り下ろした。
周囲などまるで目に入っていない。それは、弓月だけを殺せ、と命じられたかの如く。