弟矢 ―四神剣伝説―
恨みや憎しみを糧にすれば、一瞬の爆発力は大きなものがあるだろう。だがそれは、心そのものを弱らせる。

乙矢が最初に『青龍』を手にした時、本当は斬りたくないのに戦わなければならない、と思っていた。あの時の乙矢では、鬼を撥ねつけるだけで精一杯だった。


だが、今は違う。

誰かを、何かを護るために、乙矢もそして弓月も、自らの意思で神剣を抜いた。


神剣の鬼に選ばれただけでは勇者にはなれない。

勇者となることを、勇者であり続けることを、自ら選び続けなければならないのだ。


「才能とか素質とか、勇者の血が証明してくれる。でも、育んできた素養はひとりひとり違う。仇討ちのために神剣を抜いたら……それこそ、鬼にしかなりえんだろう? きっと凪先生は、弓月殿が過去のためにではなく未来のために、神剣を抜く日が来るまで、黙って見守ってたんだ」


新蔵は口元を押さえ……そのまま俯きながら、短い髪をガシガシと掻いた。


「谷底に落とした『二の剣』を探しに行かんとならんな。弓月様にお返しせねば」

「その前に『朱雀』だ。ボーッとしてないで、肩を貸せ」


この時、乙矢の腰の『白虎』は未だ落ち着かずにいた。


『朱雀の鬼』は倒れたはずなのに……乙矢は必死で平静を装い、『白虎』を宥めようとする。

だが、内に宿る鬼は、今にも乙矢の体を乗っ取り、暴れ狂う気配を漂わせていたのだった。


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