弟矢 ―四神剣伝説―
二、『朱雀』の勇者
男は笑みを絶やさぬまま、足元にある『朱雀』を蹴り上げ、自らの手に納める。
柄を握り締めたまま蠢く二の腕から下を、男は邪魔そうに振り捨てた。そして、斬りかかる弓月の『青龍』を、まるで木刀のようにあっさりと払う。
乙矢が来てくれるまで、時間稼ぎをしなければ――弓月の心に正体不明の相手に対する焦りと不安が渦を巻いた。
神剣は持ち主の心を如実に表す。
弓月を包み込む清涼たる風が止まった。『青龍』の輝きは緑青(ろくしょう)の色に落ちる。
それはまるで、『朱雀』から立ち上る紅蓮の炎に侵されたかのようだ。
「貴様――何者だ? 一矢殿の配下の者ではなかろう? 名を名乗れっ!」
弓月の問いを軽く無視し、男は左足をスッと前に出した。
神剣『朱雀』を真っ直ぐに立て、右の拳を肩口に引く。鍔を口の高さに揃えた直後、剣先を弓月のほうにわずかに倒した。八相の構え――陰の構えとも呼ばれる。
男は決して大柄ではなく、乙矢より若干背が高いくらいか。その体躯だけでは、弓月に威圧感を与えることはできない。
しかし、男を覆う気配は、『朱雀の鬼』であった一矢をも凌駕している。
柄を握り締めたまま蠢く二の腕から下を、男は邪魔そうに振り捨てた。そして、斬りかかる弓月の『青龍』を、まるで木刀のようにあっさりと払う。
乙矢が来てくれるまで、時間稼ぎをしなければ――弓月の心に正体不明の相手に対する焦りと不安が渦を巻いた。
神剣は持ち主の心を如実に表す。
弓月を包み込む清涼たる風が止まった。『青龍』の輝きは緑青(ろくしょう)の色に落ちる。
それはまるで、『朱雀』から立ち上る紅蓮の炎に侵されたかのようだ。
「貴様――何者だ? 一矢殿の配下の者ではなかろう? 名を名乗れっ!」
弓月の問いを軽く無視し、男は左足をスッと前に出した。
神剣『朱雀』を真っ直ぐに立て、右の拳を肩口に引く。鍔を口の高さに揃えた直後、剣先を弓月のほうにわずかに倒した。八相の構え――陰の構えとも呼ばれる。
男は決して大柄ではなく、乙矢より若干背が高いくらいか。その体躯だけでは、弓月に威圧感を与えることはできない。
しかし、男を覆う気配は、『朱雀の鬼』であった一矢をも凌駕している。