弟矢 ―四神剣伝説―
眼前の『朱雀』の持ち主は、『青龍の勇者』である弓月に対して、なんの感情も見せなかった。さりとて、鬼の操り人形と化した様子もない。


弓月は相手に合わせて、剣先を体の後ろに隠し、脇構えを取る。

かつて正三が好んだ構えだ。正三は体を引き、相手を自分の間合いに引き込み、一瞬で勝負を決めていた。

もちろん、同じ策が通用するとは思えない。だが、剣の長さは弓月のほうが有利だ。


その時、男の持つ『朱雀』が炎上する。


いや、本当に神剣が燃えるわけがない。だが、弓月の目にはそう見えた。


『朱雀』から陽炎のように立ち上る気を、男はそのまま自身の体に取り込んでいく。それはまさしく、神剣が主に力を与える様であった。


弓月が男の動きに合わせて剣を振り上げた時、すでに勝敗はついていた。


正面に打ち込まれ――神剣『朱雀』の切っ先は、弓月の眉間一寸手前でピタリと止まった。


「弓月殿っ!」


背中に乙矢の声が聞こえた瞬間、『朱雀』の峰は弓月の右手首を払い上げる。

弓月は右手を強く打たれ――『青龍一の剣』は再び主の元から引き離されたのだった。


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