弟矢 ―四神剣伝説―
「宗次朗さん? 無事で良かった……でも、なんでここにいるんだ?」


弓月の窮地に駆けつけ、敵を見たときの乙矢の第一声。それはひどく場違いな……ともすれば、間抜けな質問だろう。それくらい、乙矢は混乱していたのだ。


弓月が戦っていた相手――それは四天王家の一角を担う、皆実家の宗主、皆実宗次朗(みなみそうじろう)だった。


一矢、乙矢兄弟の従兄にあたる。一矢が『朱雀』を持っていたことで、乙矢はその生死を案じていた。


「馬鹿野郎! 何を呆けてやがる。そいつの剣を見てみろっ!」


乙矢は新蔵に後ろから怒鳴られ、ようやく宗次朗の手に神剣『朱雀』があることに気付く。


「なんで『朱雀』を? なあ宗次朗さん、俺にわかるように説明してくれよ。それに、弓月殿から剣を引いてくれないか? 彼女は、俺の大事なひとなんだ」


宗次朗の佇まいから、さすがの乙矢にも状況は飲み込めつつあった。


だが、如何せん彼の体は限界を超えていた。一矢から受けた大腿部の傷も、ひとりで立つのがやっとなほどだ。

乙矢は、正三との約束を果たすため、何より、弓月を守るために戦った。歯を食い縛って、兄との勝負に全身全霊を懸けたのだ。

この期に及んで『朱雀の鬼』ならぬ『朱雀の主』の登場とは――思わず、乙矢は膝を屈しそうになる。


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