弟矢 ―四神剣伝説―

五、突破

宿場町は南北に三町ほどの距離。一気に駆け抜け、そのまま海まで出る手もある。海路でここを離れることができれば、より安全だ。

その反面、一度東国に戻ってしまえば、爾志家を挟んだ皆実家の領地を訪れることは不可能に思えた。

それを考えるなら、海側に出たと見せかけて、裏街道を西へ下り美作路に沿って北上する策もある。

状況しだいでは、どちらにでも針路を変更でき、山中なら爾志家の隠れ里が点在している。乙矢が一緒なら、そこに身を隠すこともできるかもしれない。



「夜が明けると、さすがに目立つな」


独り言のような掠れる声で乙矢は呟いた。


彼らはできる限り、家屋の影に身を潜めながら宿場町を横切る作戦だった。たかが三十人程度、とはいえ、こちらは七人。戦力は実質四人。弥太吉ですら刀を差しているのに、乙矢は全くの丸腰だ。

正三がそれに気付き、脇差を乙矢に差し出したが、彼は帯刀を拒否したのである。

そんな態度に、いい加減、苛ついていたのだろう、弥太吉が乙矢の言葉に噛み付いた。


「だったらなんだよ! それもこれもお前のせいだろ? 罠が張ってあって、姫さまになんかあったら、おいらがお前を殺してやるっ!」

「弥太っ! 黙れっ!」


押し殺した声で新蔵が弥太吉の口を塞いだ。



ただならぬ蚩尤軍の動きに、宿場の連中は息を潜め、家の中に閉じこもったままだ。そして、異様な静けさの中、少年の声は表通りに響き渡り……。


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