弟矢 ―四神剣伝説―
「じゃあ、湯治場を少し北上した山中で、一矢と宗次朗を見かけたんだな」
「如何にも。川沿いを五町ほども遡った辺りであろうか」
「ま、その辺まで行きゃわかるだろ」
乙矢は新蔵を無視し、長瀬と話を進める。
「乙矢、『青龍一の剣』は持って参るか?」
天幕の片隅に、白木の箱に入れて納められた『青龍一の剣』があった。それがあれば、いざと言うときには弓月も戦力になる。長瀬はそう言いたいのだろう。
「いや、こいつだけで充分だ」
乙矢は長瀬の問いに軽く笑うと『白虎』を指差した。だが、余裕の表情を見せる乙矢に、新蔵は腹立ちを隠せない。
「お前……弓月様のことが心配ではないのかっ!?」
「心配だが奴は何もしねぇよ。弓月殿に何かあったら、奴が倒したい『白虎』の勇者はいなくなっちまうからな」
乙矢は太腿の傷に、晒木綿(さらしもめん)を細かく裂いた帯状の布を幾重にも巻き、きつく縛って貰う。医者には、城下の診療所に行き、ちゃんとした手当てが必要だと言われたが……そんな時間はない。
本来なら、当の昔に怪我人は津山城下に運ばれて然るべきだ。
だが、どうやら鬼と化した一矢を受け入れるのが嫌らしい。どの藩も四天王家の問題に関わるのを避けようとする。触らぬ神に祟りなし、といった心境なのだろう。
「如何にも。川沿いを五町ほども遡った辺りであろうか」
「ま、その辺まで行きゃわかるだろ」
乙矢は新蔵を無視し、長瀬と話を進める。
「乙矢、『青龍一の剣』は持って参るか?」
天幕の片隅に、白木の箱に入れて納められた『青龍一の剣』があった。それがあれば、いざと言うときには弓月も戦力になる。長瀬はそう言いたいのだろう。
「いや、こいつだけで充分だ」
乙矢は長瀬の問いに軽く笑うと『白虎』を指差した。だが、余裕の表情を見せる乙矢に、新蔵は腹立ちを隠せない。
「お前……弓月様のことが心配ではないのかっ!?」
「心配だが奴は何もしねぇよ。弓月殿に何かあったら、奴が倒したい『白虎』の勇者はいなくなっちまうからな」
乙矢は太腿の傷に、晒木綿(さらしもめん)を細かく裂いた帯状の布を幾重にも巻き、きつく縛って貰う。医者には、城下の診療所に行き、ちゃんとした手当てが必要だと言われたが……そんな時間はない。
本来なら、当の昔に怪我人は津山城下に運ばれて然るべきだ。
だが、どうやら鬼と化した一矢を受け入れるのが嫌らしい。どの藩も四天王家の問題に関わるのを避けようとする。触らぬ神に祟りなし、といった心境なのだろう。