弟矢 ―四神剣伝説―
乙矢はひとり、一矢が収容されている天幕に向かう。


一矢は目を閉じたまま横たわっていた。

医者は「おそらくはこのまま息を引き取るであろう」と乙矢に告げる。そのせいだろうか、監視役も少ない。天幕の外にふたりほど立っているだけだ。

乙矢はこの世で唯ひとり、自分の対となる双子の兄に声を掛ける。


「弓月殿を迎えに行って来るよ。お前には、甘いって怒られそうだけど……できれば、宗次朗さんも助けたいんだ」


乙矢はそうっと一矢に触れる。

兄の指先はすでに硬く、死人のように冷たかった。


「一矢、次も一緒に生まれて来ような」


優しい声で呟き、乙矢は兄に背を向ける。

その時、青黒く固まった指先が微かに動いたことなど、気付くはずもない乙矢だった。


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